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胃粘膜下腫瘍に対して内視鏡で病変を切除し、痕を縫合する「内視鏡的胃局所切除術」を先進医療として導入

 福岡大学筑紫病院内視鏡部(以下、当院)は、胃粘膜下腫瘍に対する内視鏡的胃局所切除術(以下、内視鏡的切除術)を、2021年7月1日に先進医療として臨床に導入しました。

 胃にできる腫瘍は胃癌などの胃の粘膜から発生する胃上皮性腫瘍が最も頻度が高く、かつ有名ですが、その次に頻度が高い腫瘍として胃粘膜下腫瘍というものがあります。これは名前の通り胃の粘膜の下にできる腫瘍で、筋肉、神経、脂肪などさまざまな組織から発生します[図1]。胃粘膜下腫瘍には生命に影響を及ぼさない良性のものから、放っておくと命に関わる悪性のものまで、さまざまなものが含まれます。その中で最も多い消化管間葉系腫瘍(GIST※1)は放っておくと増大し、転移を起こして命に影響することがあるため、多くの場合は摘出する必要があります。その他の胃粘膜下腫瘍も、良性か悪性かわからないもの、また、良性でも大きくなってくるものは悪性が否定出来ない点、または大きくなることで何らかの症状が出現することがある点から基本的に摘出する必要があります。現在、胃粘膜下腫瘍の切除はお腹を切って摘出する外科的手術が基本ですが、当院ではお腹を切ることなく、口から入れた内視鏡で病変を切除し、その傷を口から入れた内視鏡で縫い合わせるという患者さんに苦痛や負担の少ない(低侵襲な)内視鏡的切除術を、先進医療として臨床に導入しました※2

 現在国内では、癌細胞が粘膜だけに存在する早期胃癌に対してはお腹を切る手術でなく、口から内視鏡を入れて切り取る方法が多数行われ良好な治療成績を得ています。早期胃癌の場合は粘膜を取るだけで済むので、胃に穴が開くことなく切り取れますが[図2左]、胃粘膜下腫瘍は粘膜の奥の方に病変があるので、内視鏡で内側から腫瘍を完全に切り取ろうとすると胃に穴が開き、胃の中の消化液などがお腹の中に広がって腹膜炎を起こすため難しいと考えられていました[図2右]。そのため胃粘膜下腫瘍に対しては、お腹の皮膚を切ってお腹の中に腹腔鏡という管を挿入し、胃の外側から病変を切り取り、その傷を縫い合せる手術(腹腔鏡切除術)が通常行われています[図3左]。しかし、この方法ではお腹に傷が残ってしまい、病変周囲の胃を多く切るだけではなく、胃の外側に組織が付着している場合はそれも切る必要があるため、術後に胃が変形したり動きが悪くなったりするという問題点がありました。また、胃の噴門(入口)や幽門(出口)の近くに病変があった場合には、噴門や幽門を含めて大きく切る必要があるため、手術後の食生活に大きな影響を及ぼします。

 このたび、当院が導入する内視鏡的切除術は、口から内視鏡を入れて胃の内側から病変を切り取り、胃に穴が開いた部位も含めその傷を縫い合わせるものです[図3右]。この方法は、切り取る部分を最小限にとどめることができ、胃の外側の組織を傷つけず、何よりもお腹に傷が残ることなく胃粘膜下腫瘍を取ることができるので、患者さんに苦痛や負担の少ない治療法です。これは、低侵襲治療である内視鏡による消化管腫瘍の切除術をさらに高度な次元に押し進める方法と言うことができます。

※1 胃や腸の消化管壁の粘膜下にある未熟な間葉系細胞に由来する「肉腫」の一種であり、「がん」とは異なる
※2 組織検査でGISTと診断、または、超音波内視鏡・CT検査で辺縁不整や内部不均一、増大傾向を認める病変で、1〜3cmの胃の内側方向に発育する、潰瘍のない胃粘膜下腫瘍に限る


[図1]

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[図2]

[図2]

[図3]

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【補足資料】[図4]
治療は入院し、全身麻酔で行います。具体的な方法を写真で説明します。
病変部の粘膜を内視鏡で切開し(①)、病変と固有筋層との付着部を露出させます(②)。病変と固有筋層との間を、内視鏡用電気メスで切開し、腹膜組織を剥がして(③)、病変を切除します(④)。切除した後の穿孔部は(⑤)、留置スネア(円形状のワイヤ)と内視鏡用クリップで縫縮して(⑥)、処置を終了します。切除した病変は、回収ネットを用いて口から取り出します。

[図4]

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【お問い合わせ先】
福岡大学筑紫病院 内視鏡部
   宮岡正喜
TEL 092-921-1011 (内線7761)
受付時間:平日9:00~17:00

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